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EVENT 2024年12月15日

青森研修 ~その5~

今回の研修の中で訪れた弘前市。
この土地には建築家 前川國男による建築が8件あり、そのうち今回の研修で見て廻ることができたのは6件。
個別の建築については、また別の機会に掘り下げることにして…、
ここでは建築家のほうに焦点を当て、前川國男の設計活動を概観してみることにします。

1928年、東京帝国大学を卒業。前川はその日の夜に旅立ち、シベリア特急でコルビュジエのもとへ向かったといいます。
2年後に帰国、アントニン・レーモンドの事務所に就き、それから5年後自ら事務所を開設。

前川の代表作は数多くありますが、とりわけ50~60年代の建築が目立っています。
また、「DOCOMOMO JAPAN日本におけるモダン・ムーブメントの建築」に選定された建築は、共同設計のものも含めると13件にものぼります。

これらを含む前川の代表作は大まかですが以下のように類別できるでしょう。

■軽量化・工業化パネル型
テクニカル・アプローチの理念から、アルミパネルやPCパネルにより軽量化・工業化した工法で建築をつくる。
外観に凹凸のないBOX型の形状のものが多い。
・日本相互銀行本店(1952) 
・神奈川県立図書館・音楽堂(1954) 
 
・MIDビル(1954)
 
・岡山県庁舎(1957)
 


■コンクリート打放し型
テラスや大庇によって水平ラインが強調されているのが特徴、後期ではそれがめくれ上がった力強い造形になる
・京都会館(現 ロームシアター京都)(1960)
 
・東京文化会館(1961)
 

■打込みタイル型
前川が日本の気候を考慮し生み出した構法である。計画ごとに色合いを吟味しタイルを製作した。
後期になると周囲の環境に溶け込むような抑えたボリュームのものが多い。
・紀伊国屋ビルディング(1964)
・埼玉会館(1966)
 
・熊本県立美術館(1977)
 

■その他型
・前川國男自邸(1942)
・木村産業会館(現 弘前こぎん研究所)(1932)


また、上記の類別に関わらず前川建築にみられる特徴としては以下の点が挙げられます。

・開放的なピロティ
打放し型の時期によく見られ、散歩するように建築の中に入っていくことができる。
ピロティは前川建築の特徴でもあるが、同時代の建築の主流となる空間でもあった


・目立たない入口
「ここが入口」というような目立ったデザインが少ない。
特に後期になると、エスプラナードという広場を介して入るというアプローチが定着し、正面には見えないようになる。


・低めの天井、吹き抜け空間
低く抑えた天井から吹き抜け空間へ移るとことで、劇的な空間演出が用意されていることが多い。
壁面にはレリーフ、床はデザインされたタイル、天井は星空を模した照明計画など。
 

一連の作品を通してみると、プランや空間構成における変遷を見て取ることができます。
弘前の建築を例にとると、
・柱とガラスに囲まれた透明な空間(弘前市役所1958)
→人を守る要素として壁を重視し、壁で構成する建築となる(弘前市民会館1964)
 → 


・まとまったボリュームが複数あってそれをピロティ等でつなぐ(弘前市民会館1964)
→ ボリュームを鎖のように一部重ねながら増殖する(弘前博物館1976)
 → 

前川國男自身は近代建築三段階説というものを唱えていました。

第一段階、折衷様式への反抗、そこからの脱却
第二段階、機械化による機能主義・合理主義への信頼・傾倒
第三段階、近代建築における人間的・感情的な表現の試行錯誤

前川の設計活動全体で見ると、
自身の日本で初めての仕事である木村産業会館(1932)は第二段階、
京都会館(1960)・東京文化会館(1961)の時期から第三段階に移っていったとみることができます。


ところで、前川建築は写真が撮りにくいそうです。
外観を格好よく魅せる建物よりも、歩いたりそこで過ごしたり体験してみないとわからない空間が前川建築の特徴。
立面よりも平面にこだわり、そのことで当時所員であった丹下健三と意見が対立したことがあったというエピソードもあるほどです。

当時建築において後進国だった日本で、前川國男はただ単にモダニズムを取り入れようとしたのではなく、
地理的条件、文化的特徴、時代の要請に応じてそれを適応させようと格闘してきました。
この研修を通しても懐古主義で終わるのではなく、
単なる表面的なコピーや、奇を衒うだけのデザインを考えるのではなく、
次の時代に必要とされる建築の在り方を、今の人が考えること。
そんなことが学びなるのではないかと感じました。
池内
 

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